八神崇司の仕事
自分の家を生活の劇場と考え、設計した。
夢の中で見る家には、なぜかいつも大きな屋根が架かっていて、その下の大きな部屋に、大きな四角いテーブルがあった。
家を建てるなら、その場所ですっと暮らすのだから、土地の中で一番いい場所に主室をつくろうという気持ちがあった。敷地は三方を隣家に囲まれているが、南には道路をはさんで池があり、南だけとびきり条件がよい。最初に、この土地の真ん中を自分と家族の居場所に決めた。
敷地の東西にコンクリートの箱をつくって、その間に木造の柱と梁で大きな切妻屋根を架けた。こうしてできた大きな部屋を「家族の気配が感じられる」障子のスクリーンで仕切り、南側を吹き抜けさせて屋根窓をとった。北側には2階を設けた。
この家を劇場に見立てるなら、劇場が舞台を中心にして袖や楽屋、道具部屋があるように、この家は家族室を取り囲んで台所や風呂、物置を配してある。くつろぎ、食べ、寝起きし、子供を育てるといった生活のドラマがこの家族室で繰り広げられている。
この家に暮らすようになって、初めて気づいたことがある。夜中に、ふと目覚めると、屋根窓から差し込む月の光の動きは、思いのほか速かった。